世界の医療の動向

World trends

統合医療における世界の動向

補完代替医療(CAM)を使用するのは男性より女性、高学歴の人々、前年に入院を経験した人、現在あるいは過去に喫煙していた人々が多く、その理由としては近代西洋医療(CM)とCAMの併用を希望するというのが最も多く、CMを否定するのは28%のみであり、多くの人々は新たな医療の選択枝としてCAMを求めた。
また、13%がCMは高額であるから、ともしている。
1997年の調査では米国民はCAM治療に推定で360億ドルから470億ドルを支出し、このうち120~200億ドルは専門的なCAM治療提供者に現金で支払われた。
これらの支出は1997年の入院費全体の現金支出よりも多くなっており、医師によるサービスに対する全現金支出のおよそ半分に相当した。
また、無作為に抽出された2,000人のがん患者を対象とした別の調査では、75%以上の患者が CAM療法を使用しており、その内訳は、栄養的アプローチ(63%)、マッサージ(53%)、ハーブ(44%)であった。
その理由としては「免疫を賦活化する」が73%で最も多く、特に乳がん患者では 84%がCAMを使用していたことが注目される。
米国の医師に対する調査としては、CAMで一般的に使用される5つの療法、すなわち鍼、カイロプラティック、ホメオパシー、生薬、マッサージに関する医師の治療と意見を研究した25の調査を総合的に検討したところ、調査対象の医師のおよそ半数はこれら5種のCAM療法の有効性を信じており、かなりの数の医師が患者にCAM療法士を紹介するか、または医師自身がCAM治療を施していたことが報告されている。
米国で治療費の一端を担う保険会社をみると、古くは1977 年に既にCAMを適用範囲とする保険プログラムの販売が開始されている。
CAMの保険支払いを望む加入者は、会社が提供するCAMネットワークのリストからCAM療法士を選んで治療を受ける。
このCAMを保償内容としている保険会社は年々増加している。
現在では米国の主要な医学校の3分の2以上ではCAMの科目があり、西洋医学とCAMを同時に学んでいる。
アリゾナ大学ではワイル博士らが 1995 年から統合医療プログラムを開始し、日本を含めた世界各国から医師や看護師、医学生らが参加している。
アリゾナ大学では超近代的な病院の中にCAMの外来が混在し、そこからはお香の香りが病院の中に漂っていて、しかもそれが何の違和感もなく受け入れられているのが印象的であった。
サンディエゴにあるスクリップス医療センター(米国の三大医療センターの一つ)でも fMRI などの近代的な医療設備の近くで鍼治療やマッサージ、温熱療法等が当たり前のように行われている。
病院内の CAM 施設では建築デザインはもとより、壁面の色彩、模様などにも「癒し」のための細かい工夫がなされている。
また、臨床的に特筆すべきことは、末期がん患者に対するCAMを含めた統合医療(IM)の試みである。
抗がん剤を投与されているがん患者にとっては吐き気等の副作用が最大の問題となっているが、これに漢方・鍼灸などを適用することで60%以上の症例で何らかの改善が報告されている。
欧州では、前述のように何ら違和感なく古くからCAMが医療のなかへ取り入れられており、CAM領域の整体師・運動療法士なども十分にCMの解剖学、運動生理学などに則った治療を展開している。
鍼治療でも鍼を用いた無麻酔手術が1990年頃から、外科的手術の麻酔などで応用されており、また、CAMの料金がまだCMよりも低価格なことから医療費削減目的でCAMを取り入れようとした調査研究を始めている国が多く見られる。
特に高福祉医療国であるノルウェー、フィンランド、デンマークなどではこの傾向が強い。
ノルウェーでは、その調査研究は世界最北端の国立大学であるトロムソー大学で盛んに行われており、中国から専門の鍼灸師や漢方医を招いたり、また日本からは納豆を取り寄せたりするなど、様々なCAMのエビデンスが研究されていた。
また、スウェーデンではカロリンスカ大学統合医療センターを中心として幅広い調査研究が行われていた。
これらの国々ではいずれも、医療費削減を主な目的として国家的政策としてCAMが強力に推し進められている。
アジア地域をみると、特に中国では巨大な国立の統合医療センターが建設され、超近代的なCM病院を中心にCAM用の大きな研究施設と産業化施設を建設し、大々的に統合医療の産業化が国家的なプロジェクトとして進められている。
隣の韓国においても、中国よりも小規模ながら国立統合医療センターを作り、産業化が進んでいる。
以下は欧米先進国の統合医療および 補完代替医療の近年の動向である。

アメリカ

1990年代初頭に、西洋医学(CM)以外の医療、すなわち補完代替医療(CAM)に対する要望が欧米、特に米国を中心として起こった。
米国の保険制度は日本のような皆保険制ではなく、保険診療以外の医療費は国民が自己負担することになるため、各自の好みのものを自由に選択することができる。
特に、西洋医学に限界を感じた富裕層からの補完代替医療への要求が強くなったことを受けて、1991年には代替医療研究室(OAM)を作る法案が米国議会で可決され、以後、国立衛生研究所(National Institute of Health:NIH)の下部機関である補完代替医療センター(NCCAM)が中心となってその活動を強力に推進している。
米国疾病対策センター(CDC)が行っている国民健康調査(NHIS)では、米国では成人の約40%、子どもの12%が相補・代替医療を利用。
鍼やカイロプラクティックなど施術者が行う治療法が10種類、ハーブ系サプリメントや瞑想など施術者を必要としない治療法が26種類。
近代西洋医学の医科大学や医学部で相補・代替医療の課程を提供しているところがある。
2000年には、クリントン政権下でホワイトハウスに相補・代替医療政策委員会が設置され、相補・代替医療政策委員会では、相補・代替医療の教育について、全米の医学生が少なくとも1つの相補・代替医療を並行して学べる体制を各医学部が備えていることが望ましいとした。
そのため、NHISでは公式に相補・代替医療の研究と教育を推奨するようになった。
一方、米国の医学生の80%余りが相補・代替医療の知識と技術を身に着けたいとの強い要望があり、1998年の段階では、全米125医学校中、75校(60%)が相補・代替医療に関する講座・単位を持つようになった。
今日では、米国の大学の医学部の90%で相補・代替医療のカリキュラムを組んでいる。
自然療法に関しては2つの大学があり、これらの大学へ入学するには2年間の予備専門家授業を受けることが条件である。

米国の公的機関での相補・代替医療の取り扱い

相補・代替医療に関する大統領委員会はホワイトハウス相補・代替医療政策委員会(WHCCAMP)が設立され、相補・代替医療に関する現状と今後の戦略について、2002年3月に最終報告書をまとめ公表している。
この大統領委員会は、2000年のクリントン政権時代に発足したもので、同報告書は相補・代替医療に関する医療保険の給付と償還のあり方について、民間保険によるカバーが増加していること(カイロ,鍼灸,マッサージ等)、またその場合、通常は補足給付(supplemental benefit)として位置づけられていること等、最近の動向について整理を行っている。
その上で,政府が安全性・有効性等の研究を行い、それを見ながらまず民間保険が相補・代替医療を導入していくという方向を示し、また州政府は規制メカニズムを確立し、それにより民間保険導入も促進されるという姿を示している。
さらに、一旦、相補・代替医療が保険給付の対象となった場合、保健省(DHHS)は関係者と協力し、保険における相補・代替医療の使用についての基準を策定していくべきものとしている。
また大統領や保健省または議会は、連邦政府の補完・代替医療に関する活動調整のための事務局を保健省に創設すべきであり、それには十分な人員と予算が伴うべきであるとしている。
米国では,消費者ニーズに応えようと、相補・代替医療を医療保険でカバーする民間保険会社が増えている。
また、民間保険会社だけでなく、会員制健康医療団体(HMO)などのマネージドケア産業も相補・代替医療をカバーしている。
国立相補・代替医療センター(NCCAM)では年間約1億2,000万ドル(約120億円)、国立衛生研究所(NIH)全体では年間約3億ドル(約300億円)の統合医療へ向けた相補・代替医療に対する研究投資が行われており、相補・代替医療事務局(OAM)を設置した1992年度~2010年度の19年間の相補・代替医療事務局(OAM)と国立相補・代替医療センター(NCCAM)の予算額(研究投資)の合計は、13億3,950万ドル(約1,339億5,000万円に)上っている。
NCCAM は,一般に大学で伝統的に教えられている医学の一部であるとは考えられていない医学と健康管理に関するさまざまなシステムや習慣,及び製品に対する科学的研究のための連邦政府の主導機関である。
当初OAM及びNCCAMの立場は多くの先進国で一般的な医療である近代西洋医学に代わる代替の医療としての色合いが強かったが、近年は近代西洋医学を相補う補完の医療へと変遷しており、2001年~2005年の戦略計画及び2005年~2009年の戦略計画では、相補・代替医療と近代西洋医学を包括した統合医療(Integrative Medicine)の推進を図っている。
また、国民への相補・代替医療の啓発活動を行っている。
OAMの設立をきっかけに、全米の医科大学、医学研究センターなどの相補・代替医療研究に国費の補助が行われるようになった。
NCCAMでは、全米の医科大学・医学研究所などでの相補・代替医療に関する研究を割り振り、政府からの研究予算の割り当てを行っている。
これまでにNCCAMから研究予算を割り当てられた大学や研究機関と研究対象の一部の例を示す。

<NCCAM から研究予算を割り当てられた大学及び研究機関と研究対象の例>

※大学・研究機関・研究対象



2009年のNCCAMによる大学や研究機関での相補・代替医療研究への研究費助成は200件を超えていた。
米国政府は巨額の国家予算を投じて、NCCAMやNIHの他の研究所やセンターにおいて人員を動員、育成しながら個々の相補・代替医療の安全性と有効性、経済性等に付いての効果の自然科学的及び人文社会科学的検証を行うため基礎研究や臨床研究。
社会科学的研究を行っている米国政府は相補・代替医療の効果を科学的に分析・解明することで、有益な疾病予防や健康増進の手段として相補・代替医療の有用性を疾病の予防対策や医療機関における臨床に反映させ、さらに産業界との研究開発により、自国の医療政策や産業育成に反映させようとしている。
つまり、相補・代替医療の研究に対する米国政府の多額の資金投入は、将来の米国国民の医療費削減と健康・医療分野における産業育成に繋がることを念頭に置いた先行投資であり、自国の医療費の抑制と経済の発展を相補・代替医療分野に期待してのことと考えられる。

イギリス

英国における相補・代替医療の現状は次の通りである.英国では相補・代替医療(CAM)の治療法を提供する施術者の数が増加している。
2000年に発表された保健省(DH)からの委託により、補完療法の自主規制機関が行った調査によると、アメリカ国立補完補完医療センター(NCCIH)は、連邦政府の補完的かつ統合的な健康アプローチに関する科学研究の主要機関である。NCCIHの使命は、厳格な科学的調査を通じて、補完的かつ統合的な健康介入の有用性と安全性、および健康と医療の改善におけるその役割を定義すること。
科学的証拠は、補完的かつ統合的な健康アプローチの使用と統合に関する、公衆、医療専門家、および健康政策立案者による意思決定を通知する。
管理が困難な症状のケアを改善し、健康増進と疾病予防を促進する。
補完的かつ統合的な健康研究力を強化する。
補完的および統合的な健康介入に関する客観的なエビデンスに基づいた情報を広める。
イギリスでは癌の患者における相補・代替医療(CAM)の公益性と利用が増加しており、英国上院特別委員会の責務として、CAM分野の質の高い研究を進展させ、癌患者の平均 3分の1は何かの形でCAMを利用したことを示す調査から、保健省はCAMの研究(研究能力養成計画の最初の期間に130万ポンドと癌患者の治療におけるCAMに関する3つの定性研究の計画のために 32 万 4,000 ポンド) に対し資金を提供し,保健における根拠に基づくCAMの発展の助けになるとしている。
国営医療サービス(NHS)の相補・代替医療臨床家要覧(NHS)では,相補・代替医療の施術者リストの公開と検索サービスを提供しており、相補・代替医療の利用における国民への情報支援を行っている。
毎年50万人以上の患者が従来の医療とともに補完療法を使用している。

【王立ロンドン統合医療病院】
 Royal London Hospital for Integrated Medicine

王立ロンドン統合医療病院(RLHIM)は、ヨーロッパで最大の公共医療総合プロバイダーです。 RLHIMは、さまざまな状態に対する従来の補完的な治療のベストを統合した、革新的な患者中心のサービスを提供します。すべての診療所は、補完医学の追加トレーニングを受けたコンサルタント、医師、およびその他の登録医療専門家が主導しています。
RLHIMは外来診療所で運営されています。
UCLの他の病院と緊密に連携し、必要に応じて入院治療だけでなく現代の従来の技術にもアクセスできます。
臨床サービスには、鍼治療サービス、アレルギーサービス、子供向けサービス、慢性疲労サービス、線維筋痛症候群サービス、一般医学サービス、不眠症および睡眠薬、統合がん治療、統合医療、過敏性腸症候群サービス、筋骨格医学およびストレス管理、栄養および栄養管理が含まれますサービス、足病サービス、心理療法サービス、リウマチサービス、スキンクリニック、女性サービス。
病院は統合された薬局サービスを提供しており、患者と公衆は十分に訓練された薬剤師から専門的なアドバイスを得ることができます。他の患者およびスタッフサービスには、小売薬局、専門の補完代替医療ライブラリが含まれます。
病院内には、医療専門家向けの統合医療に関するコースを実施する教育ユニットもあります。

フランス

フランスの相補・代替医療の中で最も人気があるのは,ホメオパシー,鍼治療,ハーブ薬,水治療法,カイロプラクティック,タラソセラピー(海洋療法),整骨療法,虹彩学の順である。
1987年の調査では、主に一般開業医の医師の36%は、医療行為において少なくとも1つの相補・代替医療を使用している。
相補・代替医療を使用している医師の内5.4%は相補・代替医療だけを使用し、20.7%は頻繁に使用し、72.8%は時々使用していた。
社会保障制度は、医師が医療行為において相補・代替医療を用いることを、「特殊なタイプの治療を行う医師(MEP)」として認めており、全ての医師に適用されている。
1993年には、医療全体の6.2%がMEPとして登録された。
フランスでは5万人の医師以外の施術者が相補・代替医療を提供していた。
ある調査では49%の人がアンケートに回答し、その内53%の女性と44%の男性で少なくとも1回相補・代替医療を利用し、16%は前年中に利用していた。
相補・代替医療は35歳~45歳の間で最も人気があり、この年齢層の人々の59%が相補・代替医療を利用していると報告された。
組織の幹部や学識経験者の68%は相補・代替医療は利用しており、中間管理職や中堅の専門家の60%や農家の40%と比較し、最も相補・代替医療の利用率の高いグループであった。
これらの調査は、軽症な疾病(49%)、慢性的な症状(54%)、重篤な病気(3%)、疾病予防と健康的なライフスタイルの推進(17%)のために相補・代替医療を利用していると報じた。相補・代替医療を利用している患者の70%が軽症の疾病に効果があると考え、65%は慢性疾患に効果がある、9%は重篤な病気に効果があると考えている。
11%の患者のみが、相補・代替医療は軽症の疾病の治療には効果がないと考え、15%は慢性疾患には効果がない、38%は重篤な病気には効果がないと考えていた。
フランスには相補・代替医療の専門家と患者のための多くの組織が存在する。

フランスにおける相補・代替医療の教育と訓練】

近代西洋医学以外の施術者に相補・代替医療を教えることは許可されている。
相補・代替医療の学校や課程の数は最近増加傾向にあり、ボビグニー大学は1982年に自然医学部を設立した。
それ以来、鍼療法、ホメオパシー、フィトテラピー、整骨療法、耳介療法、自然療法、オリゴセラピー、メソセラピーで卒業証書を与えている。
1990年に、自然医学の大学卒業証書(フランス政府医師指令によって公認された大学間証明につながる訓練)は、鍼療法と整骨療法のために作成された。
フィトテラピーは既に薬局での訓練に組み入れている。
しかし、これらの療法は医療専門職であるとは考えられていない。
医学専門職として認識を得るためには近代西洋医学の専門職に適用されている評価基準に従い規律を教えなければならないし、訓練は終日であり、臨床実習の期間も含むべきである。
外国の学校で修業する近代西洋医学以外の施術者もいる.例えば,キネシオセラピストや理学療法士、通常提供するカイロプラクティックの治療は、英国かドイツで訓練されている。
フランスにおける相補・代替医療の保険の範囲は次の通りである。
フランスでは、近代西洋医学の医師が相補・代替医療を提供する限り、社会保障と民間保険は相補・代替医療はそれらを還付する。
社会保障は公認医師によって書かれたホメオパシーの処方箋とカイロプラクティック、医学的植物療法の診察、認定されたキネシオセラピストによる相補・代替医療の施術セッションを含む特定の医療活動や医薬品を還付する。
MEP医師によって行われる鍼治療は還付され、MEP医師であれば、近代西洋医学の診察に関する規則に即し供給される。

ドイツ

1992年にドイツ連邦政府研究技術省とWritten/Herdecke大学が共同で、相補・代替医療に関する大規模な世論調査を行った。
その報告では、近代西洋医学の医師の4分の3は相補・代替医療を使用していた。
1994年には、1万~1万3,000人の相補・代替医療の施術者と専門家団体に所属している8,000人のハイルプラクティカー(治療師)が存在していた。
1992年には、2,000万人の患者が相補・代替医療を利用していた。
最も頻繁に利用される相補・代替医療で人気があるのは、ホメオパシー(27.4%)、 鍼(15.4%)、プロカイン注射療法、カイロプラクティック、オゾン・酸素療法、ハーブ薬、体液病理学、マッサージ、細胞療法であった。
1992年の世論調査では、人口の20%~30%が相補・代替医療を利用し、人口の5%~12%が前年の間に相補・代替医療を利用していた。
相補・代替医療は男性よりも女性に人気があった。
ほとんどの相補・代替医療は、18歳~65歳の年齢で教育のレベルが比較的高いとされる人々が利用していた。
ほとんどの場合、患者は最初に近代西洋医学の治療を受けていた。
ドイツには相補・代替医療関連の団体や施術者が多数存在していた。
また、1994年に英国の王立ホメオパシー病院(現・王立ロンドン統合医療病院) のPeter FisherとAdam WardによりBMJに掲載された論文では、ドイツ国民の46%が、何かしらの相補・代替医療を利用していると報告している。
さらに2006年のハイデルベルグ大学の論文では,炎症性腸疾患患者の52%で相補・代替医療が利用されていたと報告されている。
ドイツでは相補・代替医療が家庭医の間で受け入れられ、プライマリケアの日常診療において、相補・代替医療が広く利用されている。

ドイツにおける相補・代替医療の教育と訓練

標準カリキュラムの一環として,近代西洋医学の医学校では、相補・代替医療に関する知識を学生に試験しなければならない。
また、学生は相補・代替医療を大学院での専門として選択することができる。
ハイルプラクティカー候補者は、教育訓練期間と教育内容の質が違いのように、幅広く多様な教授法による資格試験に合格するための標準化された訓練をする必要はない。
ドイツでは「ホメオパシー専門医師」という称号が法的に保護されている。
医学会議所は3年間の研修プログラムの後に、この称号を与える。
公的なホメオパシーの教育契約は、ベルリン、デュッセルドルフ、ハノーバー、ハイデルベルグの医学部にある。

ドイツにおける相補・代替医療の保険の範囲

ドイツでは公的保険と民間保険は同じ種類の適用範囲を提供している。
双方は現在,いくつかの相補・代替医療への還付の適用範囲拡大に向けて動いている.還付を得るための憲法上の権利が何もないにもかかわらず,社会保険と民間保険の両方で,次の 4つの範囲を相補・代替医療の適用とする決定を下した。

①特定の病気の治療や痛みを減少させるために、近代西洋医学の治療が何も利用できない場合、例えば多発性硬化症やある特定の形質の癌において、因果関係が未知である場合でも、治療方法が科学的に認知されるか否かに関係なく、治療に少しでも勝算があるのなら、相補・代替医療の使用は還付される。

②因果関係が分かっているが、どんな近代西洋医学の治療も利用できない場合、相補・代替医療への償還請求は容認され、その因果関係による僅かな成功の機会が与えられる。手当は、先の近代西洋医学の治療が失敗している時、同様の治療が行われる。

③近代西洋医学の治療と相補・代替医療の治療の両方が利用可能な場合は、近代西洋医学の治療は患者に対し、一般的にまたは特定の副作用や危険性があるため、相補・代替医療の使用は還付される。但しこの場合、治療の危険性と費用対効果のバランスをとる必要がある。

④患者の自由において、安全な近代西洋医学と非近代西洋医学の治療法があれば、患者は安価な治療法を選択することができる。

社会法典の条項により、人智医学と植物療法、ホメオパシーの製品は還付され、還付されるためには、実験的治療は広範な条件において役に立ち安全であることが認識されなければならない。
民営保険会社の中には、ハイルプラクティカーによって提供された科学的に認められない治療であっても、その有効性を完全に否定することができなければ、還付するものもある。

ドイツにおける相補・代替医療の定義と特徴

ドイツでは相補・代替医療の公的な定義は存在しない。
また、ドイツの医療システムにおいては“school medicine”と呼ばれる、所謂従来の近代西洋医学が主流であり、相補・代替医療を含む「統合医療」という言葉も余り知られていない。
しかし、主流の近代医学による医療においても、医師による疼痛管理や治療の7割以上で、従来の医薬品による治療以外に、鍼治療や徒手療法などの相補・代替医療も用いられている。
また、認知症改善に効果があるとされているイチョウ葉エキスは、医師の処方する医薬品として認可されているほか、ナチュロパシー(自然療法)、ハーブ療法、ホメオパシーなどが積極的に利用されている。
さらに、医学生は相補・代替医療の知識は必修となっており、医師国家試験にも相補・代替医療の問題が出題されている。
医師会が医学校卒後の生涯教育による専門医追加資格の認証を得る際、政府が認める専門科は23種あるが、その中には近代西洋医学の専門科以外にホメオパシーなども含まれている。
現在、自然療法専門医約1万人いると言われている。
ドイツで相補・代替医療全般を提供できるのは、医師とハイルプラクティカー(治療師)であるが、薬剤師には薬剤師の追加資格としてホメオパシー専門薬剤師が存在する。
ドイツでは相補・代替医療が国民だけでなく医療従事者にも浸透している。
ドイツは主要先進国や欧州の中でも最も相補・代替医療が活用されている国でもある。
ドイツには,相補・代替医療を行うドイツ独自の職業として、ハイルプラクティカー(治療師)が存在する。
ハイルプラクティカーとは「治療士法」(1939 年制定)により規定されている「医師の免許なくして営業的に診療行為を行う職業」のことである。
治療師が施す治療方法の範囲は広く、職種の具体的な定義はない。
例えばホメオパシー、中国伝統医学(TCM)、指圧、鍼灸治療などの職業もハイルプラクティカーとされている。
但し歯科領域とレントゲン撮影などをすることはできない。
ドイツ各地にハイルプラクティカー養成校が存在し、それぞれの養成校によってホメオパシーや植物療法の教育が充実しているところや、中国の伝統医学である中医学や鍼治療の教育に長けているところなどの特色がある。
ドイツにおける医師以外の鍼灸治療者の教育を担っているのも、これらハイルプラクティカー養成校である。
一般的にどの養成校を卒業したかにより、そのハイルプラクティカーの能力も計られているようである。
養成校の修業年限は各校によって異なり、養成校を卒業後、管轄区の下級行政官庁が保健所との合意で免許を与えている。
ハイルプラクティカー連盟に加入しているハイルプラクティカーは現在約2万人であるが、強制加入ではないため実際にはかなり多くがハイルプラクティカーの免許を取得していると予想される。

スウェーデン

1989 年の調査では、成人の20%が相補・代替医療を利用していた。
患者は相補・代替医療を利用している患者の40%は政府の国民健康サービスに満足できないため、相補・代替医療を選択したと述べている。
相補・代替医療を利用している患者の70%は相補・代替医療を通じて健康が増進され病気が治癒したと述べたが、1%は健康が悪化したと述べた。
次に相補・代替医療で最も人気があるのはホメオパシーで、相補・代替医療の受診の4%を占め、鍼治療、ナチュロパシー(自然療法)、生薬の順であった。
また、2005年に発表されたスカンジナビア半島諸国(ノルウェー,デンマーク,スウェーデンの首都ストックホルム)の相補・代替医療の利用状況の調査では、スカンジナビア半島諸国を横断した電話調査の結果から、スウェーデンの首都ストックホルムでは49%の人が相補・代替医療を利用していると報告されている。
相補・代替医療の中でも、ストックホルムで最も人々が活用しているのはマッサージ(57%)、次いで自然治療薬(42%)、カイロプラクティック(30%)、鍼治療(26%)、ナプラパシー(21%)、リフレクソロジー(9%)、ホメオパシー(7%)、ヒーリング(4%)、人智医学(3%)、ローゼン・セラピー(2%)、キネシオロジー(2%)、クリスタル・セラピー(1%)の順であった。
過去一年以内の相補・代替医療の利用については、ストックホルム(20%)であった。
ストックホルムでは相補・代替医療の利用に男女の差は少なかった。
ストックホルムの相補・代替医療を最も利用している年齢層は30歳~59歳で、教育レベルの高い人々であった。
スウェーデンには承認された自然治療薬があるが、どれも国家の必須医薬品リストに含まれていない。
1980年に副作用のモニタリングを含んでいる市販後調査システムが、初めて自然療法に適用された。
スウェーデンでは自然治療薬は卸売業証明書をもっていれば誰でも販売することができるが、それらは薬局だけで販売されているのではなく、スーパーマーケットや通信販売などでも販売されている。
1999年の自然治療薬の年間売上高は、9億8,000万スウェーデンクローナ(1億2700万USドル)で、2000年と2001年には11億クローナ(1億4,300万USドル)で、2002年と2003年には、およそ10億クローナ(1億3,000万USドル)であった。

スウェーデンにおける相補・代替医療の教育と訓練

今日、スウェーデンで働いているホメオパシーの施術の数は増加しており、その大部分は民間の団体で教育されている。
この教育は、様々な側面で近代西洋医学の医師の教育に対応している。
ホメオパシーのトレーニングを提供している3つの私立学校がある。
また、ウプサラ大学では教授によって教授される4年制の基礎医学コースがある。
スウェーデンにおける相補・代替医療の保険の範囲は次の通りである。
近代西洋医学以外の施術者がスウェーデンで患者を治療する際、それらの治療に対する医療システムからの償還はない。
近代西洋医学の医師によって提供された鍼治療だけが社会保険によって部分的に償還される。
相補・代替医療に関する委員会は、相補・代替医療の施術者による治療に対する償還を提案しなかった。
スウェーデンの公的機関での相補・代替医療の取り扱いは次の通りである。
スウェーデン政府には、現在のところ相補・代替医療に関する国策や法,規則,国家計画はない。
また、それらを確立する計画も今のところはない。
現在、相補・代替医療に対応する非国営の事務局や専門委員会、国立の研究所がある。
しかし。相補・代替医療への関心が高まる中、1989年に議会の委託による代替医療に関する委員会の報告書が出され、「誰でもその必要とする形態・方法の治療を選ぶ自由がある」ことを強調されるとともに、代替医療に関する現状調査や評価などが示され、また「患者の自由の拡大と医師による独占の緩和が患者及び科学の今後の発展の双方にとって恩恵をもたらす」とされた、さらに1996年には別の委員会(Swedish Commission on Competence)の報告書が出され、「1 年以上の訓練期間をもつ相補・代替医療従事者のグループの創設と、それらが国家医療福祉委員会に登録されること」が提言された。
これらの動きを受けつつ、相補・代替医療の位置づけや政策のあり方について模索が行われている状況にある。

スウェーデンにおける相補・代替医療の学術機関

スウェーデンで統合医療や相補・代替医療を学術的に研究している機関の一つに、カロリンスカ研究所のオッシャー統合医療センター(OCIM)がある。
オッシャーセンターは、米国のオッシャー財団の寄付により設立された。
オッシャーセンターは世界に3ヶ所在り、他の2つは米国のカリフォルニア大学サンフランシスコ校(医学校)とハーバード大学(医学校)にある。
何れも相補・代替医療や統合医療を科学的に研究する目的で、米国のオッシャー財団から資金援助を受け、運営されている。
カロリンスカ研究所のオッシャー統合医療センターでは、「統合医療は様々な分野と確立された医療を補完する伝統医学から根拠に基づく知識の開発や確立を通して、健康増進と疾病の駆逐を目的としている」としている。
統合医療では、高い水準の科学的証拠と評価が伴えば、従来の医療は相補・代替医療の治療法や知識と組み合わせることができると考えている。
そこでは,厳密な科学的方法を相補・代替医療のメカニズムや治療効果、効率、社会における利用を評価するために用いられ、研究されている。
特に心理学的視点を肉体的で精神的な幸福の決定因を精査するために用いている。
偽薬のメカニズムや疼痛経験、自己健康観に重点をおいた基礎科学の研究を中心に行っており、主に疼痛として拡散する疾病の症状に焦点を当てた治療に関する応用研究も行っている。
オッシャー統合医療センターでは、主に「心身医療」に関連するもの、例えば疼痛や不眠などの心理的な治療法などを扱っている。
その治療法は他に主要な治療が確立していない領域に関連するものである。
全ての患者の治療は研究計画で行われ、オッシャー統合医療センター独自の臨床は行っていない。
また、オッシャー統合医療センター以外のカロリンスカ研究所内の他の部署でも統合医療や相補・代替医療の研究が行われている。
特に Torkel Falkenberg 教授が統括する看護学部の統合医療研究部門では、年間200万クローネの研究費が付き、10人が統合医療及び相補・代替医療の研究に従事している。
看護学部の統合医療研究部門では、オッシャー統合医療センターのような心身医療に関わる基礎研究ではなく、主に統合医療や相補・代替医療の臨床応用研究や社会医学的研究を行っている。
現在スウェーデンでも統合医療や相補・代替医療の費用対効果が注目されており、統合医療や相補・代替医療の医療経済学的研究を含めた研究計画を進めている。
また、ルンド大学やスウェーデン農業大学などの大学や研究機関でも相補・代替医療の研究が行われている.
スウェーデンの医療体系は近代西洋医学が中心ではある.スウェーデンの医療システムにおいては“school medicine”と呼ばれる,所謂従来の近代西洋医学が主流であり、近代西洋医学の医師は、大学で近代西洋医学のみ教育される。
医師は養成段階で公的に教育されなかった近代西洋医学以外の治療法を日常の臨床に用いてはならないことになっており、また、スウェーデンの国民健康保険にかかわる医療制度上、スウェーデンの殆どの病院が県と契約している公的医療機関であり、スウェーデンの殆どの医師はそれらの機関に所属しているため、公務員でもある。
そのため大学の公的医学教育で教授されない鍼治療を含めた相補・代替医療のような公的に認められていない治療法を公的医療機関で行うことは違法となる。
スウェーデンの医師の職能集団では医療行為の公正性を互いに監視しており、仮に“school medicine”で教えられていない治療行為を日常の臨床で行う医師がいれば、その医師は医師仲間からの告発を受ける。

WHOの動向

WHO(世界保健機関)によれば、人口比率では近代西洋医学を利用する人は先進国を中心とした世界人口の20~35%であり、世界の健康管理業務の65~80%は土着の民間療法や伝統医学の相補・代替医療に頼っているとされている。
WHOでは、1980年代から伝統医学や民間療法を1次医療(プライマリーヘルスケア)に取り入れた。
1990年代には伝統医学や民間療法の分類や評価、分析が本格的に始まり、それらを用いたヘルスプロモーションの試みがなされてきた。
しかし、アフリカやアジア、南米などの開発途上国では、現在、先進国の企業などが開発途上国の伝統医学や民間療法に用いられている薬草などの有効成分、診断や治療方法など、その国の伝統医学や民間療法の治療に必要な資源や知識に特許をかける知的財産(IP)戦略が問題となっている。
これに対し開発途上国では、伝統医学や民間療法による特許は、伝統医学や民間療法を育んできた、それぞれの国に帰属すべきであると主張している。
また、WHOでは伝統医学の底上げをしようとしているが、それに伴う教育の整備や研究開発投資による伝統医学の治療費の高騰化という問題もでてきている。
今後WHOにおける伝統医学や民間療法を用いたヘルスプロモーションが発展していくかは、これらの課題をいかに解決するかにかかっている。

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